そう、年に一回、いや、数年に一回くらいか、
街が霧に覆われてしまうことがあるのだった。
高原の濃霧のように、伸ばした腕の先さえも
見えなくなる、ということはないのだけれど、
それでも、あまり高いとはいえないこの街の上層は消失し、
やがて下層も麻酔液のようなそれに沈んでしまうのだった。
息をするたび肺が湿る、というか濡れる。
どこか遠い河口のぬかるみにぬたうつ肺魚のわたしは、
おなじく身をよじる同輩の誰かさんたちをよけながら、
陸にあがるべきなのか、それとも海に還るべきなのか、
思案しながら不格好な尾びれで暗い泥をたたいていた。
霧に沈んだ小路を歩く、というか薄く泳ぐ。
店のなかは空調がよく効いているのだった。
霧が浸透してくる気配はない、完全な防水。
乾いた空気とサングリアがとても美味しい。
音楽が始まる、いまここは密閉されている。
ノスタルジック、というかエキゾティック。
目のまえの小さな拡声器から遠い唄声が響いている。
金属のギターには三つのリゾネイターがついている。
彼はクライスラービルを抱えて唄っているのだった。
レコード盤のヒスノイズが聴こえたのは気のせいか?
ボン・ヴォィヤージュ、というか一路平安。
いにしえの良い音楽を聴いてすっかり酩酊した。
店を出たとたん、濃い霧が肺に流れこんできた。
遠い河口のぬかるみにぬたうつ肺魚のわたしは、
再び不格好な尾びれで暗い泥をたたくのだった。
----- 7/5(土)-----
@ Sausalito
" 蓄音機的夜 "
伊藤耕太郎(guitar,vocal)
especial guests were
guinn(tenor sax)
reiko "dulfer"(alto sax)